漁業大国・日本の危機と、次世代水産養殖を切り拓く「2つの新技術」——ある仮説の提案

魚の画像

四方を海に囲まれた日本。かつて食卓には、安価で新鮮な天然魚が当たり前のように並んでいました。しかし今、日本の水産業は歴史的な転換点に立たされています。

たとえばサケは、北海道での漁獲量が2003年の23万1,480トンをピークに減少を続け、2025年の概報値は1万7,000トンと、ピーク時のわずか7.3%まで落ち込んでいます(出典:北海道「北海道水産現勢」、水産研究・教育機構)。サンマも、2025年の漁獲枠が前年よりおよそ1割減の9万5,623トンとなり、漁獲枠の設定が始まった1997年以来、初めて10万トンを下回りました(出典:日本経済新聞、2025年4月21日)。こうした記録的な不漁が日常のニュースとなり、「獲る漁業」の限界が浮き彫りになっています。

世界的に見れば、水産物の生産量はすでに「養殖」が「天然」を上回っています。長らく天然資源の恩恵を受けてきた日本も、いよいよ本格的に「育てる漁業」へとシフトすべきフェーズに突入していると言えるでしょう。


なぜ今、水産養殖への転換が急務なのか

水産養殖場のイメージ画像

これまで日本で高度な養殖業(特に陸上養殖など)が爆発的に普及しなかった理由の一つは、「海に行けば天然魚が安く獲れたから」です。しかし、その前提は以下のような要因によって揺らぎつつあります。

  • 気候変動による海洋環境の変化:海水温の上昇や海流の変化により、「今まで獲れていた魚が、今までいた海域にいない」事態が各地で報告されています。

  • 世界的な需要拡大:新興国を中心とした水産物需要の増加により、水産資源の国際的な争奪が強まっています。実際、養殖魚の主要な餌である魚粉は、最大生産国ペルーでの不漁や中国の需要拡大を背景に国際価格が高騰し、2023年6月には国内価格が約8年半ぶりに最高値を更新、2020年初めの安値と比べて9割高い水準になりました(出典:日本経済新聞、2023年6月13日)。魚類養殖では餌代がコストの6割以上を占めるため、これは経営に直結する深刻な問題です(出典:水産庁「漁業・養殖業の経営の動向」)。

  • 地政学リスクの顕在化:排他的経済水域(EEZ)周辺での他国船の操業など、海洋資源を巡る国際的な競争も激化しています。

天候や外的要因に左右されず、安定した供給が可能な次世代型の水産養殖は、日本の食料安全保障の観点からも重要性を増しています。


立ちはだかる「水質」と「餌」の壁

水産養殖業の普及に向けた2つの壁のイメージ画像

養殖業への期待が高まる一方、養殖業には大きく分けて2つの壁が立ちはだかっています。これは陸上養殖・海面養殖のどちらにも共通する課題です。

  1. 餌問題(魚粉の高騰):前述の通り、養殖魚の主要な餌である魚粉の価格高騰が、養殖ビジネスの利益を圧迫しています。これは陸上・海面を問わず、給餌養殖業全体に共通する課題です。

  2. 水質問題:ただし、水質問題の中身は養殖方式によって性質が異なります。

    • 陸上養殖(閉鎖循環式):限られた水槽内で水を循環させるため、残餌や糞による水質汚濁(アンモニアや有機物負荷)が水槽内に蓄積しやすく、コントロールが難しいという課題があります。

    • 海面養殖:生簀は海水と自然に交換されるため、閉鎖循環式のようなアンモニア蓄積は起きにくい一方、赤潮(植物プランクトンの大量発生により魚のエラが詰まったり有害物質でダメージを受けたりする現象)や貧酸素水塊(プランクトンの死骸分解などにより底層の酸素濃度が低下する現象)による大量へい死という、海域規模の環境リスクにさらされています。実際、2024年も八代海・橘湾等でカンパチ・シマアジなどの赤潮被害が発生しています(出典:水産庁「令和6年度 赤潮による被害の継続」)。

「天然資源に依存しない良質な代替飼料の開発」と「低コストで高度な水質改善システムの構築」この2つが、養殖産業がさらに普及していくための重要な条件になると考えられます。


一つの仮説:「ナノバブル」と「BSF+微細藻類」の組み合わせ

微細藻類とBSFのイメージイラスト

ここからは、上記の課題に対する筆者自身の仮説・提案です。実証データに基づく確立した解決策ではなく、既存の要素技術を組み合わせたアイディアとしてお読みください。

注目しているのは、ナノバブル技術と、アメリカミズアブ(BSF: Black Soldier Fly、以下BSF)および微細藻類を組み合わせた代替飼料です。

ナノバブルとは、直径が数百ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)以下という極めて微小な気泡のことです。通常の気泡と違って水中で浮上しにくく長時間滞留する性質があり、溶存酸素の供給効率化や水質浄化などへの応用が研究されています。

BSF(アメリカミズアブ)は幼虫を飼料化することで注目されている昆虫で、成長が早く有機廃棄物を餌にできるなど環境負荷の低さから、魚粉に代わるタンパク源・脂質源の有力候補とされています。ただし、BSFの脂質は主にラウリン酸などの飽和脂肪酸であり、養殖魚の成長・健康に不可欠なEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)といったオメガ3系高度不飽和脂肪酸をほとんど含んでいません。天然の魚がEPA/DHAを持つのも、食物連鎖の起点である微細藻類(ナンノクロロプシスなど)がこれらを生合成しているためです。そこでBSFに微細藻類由来の成分を組み合わせることで、栄養学的により完全に近い飼料を作れるのではないか、というのがこの仮説の骨子です。

さらに、ここに「ナノバブル技術」を組み合わせることで、相乗効果が期待できるのではないかと考えています。

  • 藻類培養の効率化(期待される効果):ナノバブル(特にCO2バブル)による物質移動促進や溶解効率の向上が、コストの壁となっている藻類の光合成・生産性を引き上げる可能性があります。ただし、この効果は藻種やガス種(空気・酸素・CO2)、培養スケールによって変動することが報告されており、条件次第で効果が限定的になる可能性もある点には注意が必要です。

  • 飼育水質の改善(期待される効果):陸上養殖の水槽にナノバブルを導入すれば、溶存酸素の安定化や水質浄化能力の向上が期待でき、密集飼育のリスク低減につながる可能性があります。さらに、海面養殖の生簀においても、酸素濃縮器とナノバブル発生装置を組み合わせて赤潮発生時にブリ類を救命する手法が、すでに水産庁の実証事業で提案されています。直径100nm程度のナノバブルは理論上数ヶ月にわたり水中に留まる性質を持ち、酸素ボンベでは現実的でない海面生簀規模の酸素供給を、比較的低コストに実現できる可能性が示されています(出典:水産庁「高濃度酸素発生装置による赤潮発生下のブリ類救命手法の提案と効果・経済性検討」)。つまりナノバブル自体は、陸上の閉鎖水槽だけでなく海面養殖の水質(酸素)リスク対応としても、すでに実証段階に入りつつある技術と言えます。


実用化に向けた6つのクリアボード

実用化への6つの課題

これらの技術要素(ナノバブル、BSF養殖、微細藻類培養、EPA抽出濃縮)は個別にはすでに存在する技術であり、決して夢物語ではありません。しかし、事業化に向けては以下の課題を段階的に実証していく必要があります。

  1. コスト競争力:高コストになりがちな微細藻類のEPA生産が、高騰する既存の魚粉・魚油の市場価格に対して経済的優位性を持てるか。

  2. バブル効果の最適化:ガス種(空気・酸素・CO2)やスケールによって効果が変動するため、スケールアップ時の条件を実証データに基づいて確立すること。

  3. 光の透過性の確保:ナノバブルによる水の白濁が、藻類培養槽内での光合成を阻害しないよう、バブル密度とサイズを調整すること。

  4. 実魚での給餌試験:BSFと藻類を混合した飼料に対し、対象となる魚種が問題なく摂食し、消化・成長するかを実証すること。

  5. 法規制のクリア:飼料安全法に基づく、新規配合飼料としての届出や安全性評価のプロセスを適切に踏むこと。

  6. 餌と水質の統合設計:消化吸収の良い餌を作ることは、そのまま糞尿による水質悪化を防ぐことにも直結します。水質浄化と餌の高機能化を一体のシステムとして設計すること。


小さな一歩から

技術的なハードルは複数ありますが、まずは小規模なパイロット試験——藻類培養槽でのナノバブル有無による生産性比較や、少量のBSF+藻類混合飼料での給餌試験——から着実にデータを積み上げていくアプローチが、現実的で確実な進め方だと考えています。

こうした地道な検証の積み重ねの先に、気候や天然資源への依存から脱却し、自国の技術で高品質な魚を育てる道が見えてくるのではないでしょうか。微細藻類培養、昆虫飼料、ナノバブルという日本が持つ要素技術を組み合わせるこの取り組みが、将来的に日本の水産業をアップデートする一つの選択肢になればと考えています。

我々CWMは独自のナノバブル発生装置技術である Nano-Inset を持っています。Nano-Inset は大型化にも小型化にも向いているため、今回紹介したようなソリューションを実現するための技術としてはピッタリです。我々はナノバブルの力を応用することで、環境とそれに依存して生きる我々一人一人の命の両方を守る可能性を持つと考えています。このイノベーションにご関心をお持ちの方は、ぜひご連絡ください。
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本記事は筆者の仮説・提案であり、記載した技術の組み合わせによる効果を保証するものではありません。実用化には各段階での実証試験が必要です。

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