水田のメタンはどう測る?意外すぎる「特別な方法」と、そこにある「世界標準」

paddy field

「メタンの計測どうやってはかる?」 みなさん、こんな疑問はありませんか?

地球温暖化の原因の一つと言われるメタンガス。 実は、私たちが毎日食べるお米を作る「水田」からも、このガスが出ていることをご存知でしょうか。

「えっ、田んぼからガス? じゃあ、最新のセンサーでピピッと測るの?」 そう思う方も多いのではないでしょうか。 しかし実際は、水田の測定には、私たちの想像を裏切る「特別な方法」があるのです。


なぜ「メタン」を測ることが重要なのか?

そもそも、なぜこれほど苦労してメタンを測る必要があるのでしょうか。 それは、メタンが二酸化炭素の約25倍もの温室効果を持つ強力なガスだからです。

驚くべきことに、世界の人為的なメタン発生量のうち、約10%以上が「水田」から発生していると言われています。世界人口を支えるお米作りは重要ですが、同時に温暖化対策も待ったなしの課題なのです。 「水を抜く期間を増やす(中干し)」などの工夫でメタンを減らせることは分かってきましたが、それが「実際にどれくらい減ったのか」を正確に証明できなければ、効果的な対策とは言えません。だからこそ、「正確に測る技術」が地球の未来を左右するのです。


田んぼでは「センサー」が使えない?

空気中のガスを測るなら、高性能な機械を田んぼに立てておけばいい気がしますよね。 しかし、研究現場には「水田ならではの難しさ」があります。

  • 風の影響: 屋外なので、ガスが出てもすぐに流されてしまう。

  • 場所のムラ: 稲の茎から出たり、泥から泡で出たり、場所によってバラバラ。

つまり、ただ空気を測るだけでは、「この田んぼからどれくらい出たか」は正確には分からないのです。 そこで登場するのが、世界共通の「特別な方法」です。


「透明な箱」と「注射器」を使うアナログな技術

chamber method

その方法とは、専門用語で「チャンバー法」と呼ばれています。 やり方は驚くほどアナログです。

  1. 透明なプラスチックの箱(チャンバー)を用意します。

  2. それを稲の上からカポッと被せて、水田にフタ(密閉)をします。

  3. そのまま時間を置き、箱の中に溜まった空気を注射器で吸い取ります。

そう、「物理的に閉じ込めて捕まえる」のが最も確実な方法だったのです。 研究チームは、夏の暑い日も自らの足を使って現場に入り、この箱を設置しては注射器で空気を採取するという地道な作業を行っています。


日本の研究者が作った「世界のものさし」

「えっ、プラスチックの箱を置くだけ?」と思ったかもしれません。

しかし、この一見シンプルな方法は、実は高度に計算された科学的な手法です。

この手法を世界中で正確に行えるよう、国際的なルールブックを作ったのが、農研機構(NARO)の南川和則(みなみかわ かずのり)教授たちのチームです。
南川教授らは、「手動閉鎖式チャンバー法による水田からのメタン・亜酸化窒素排出量の測定マニュアル」 を策定しました。

世界的な温室効果ガス研究ネットワーク「GRA(グローバル・リサーチ・アライアンス)」の水田研究グループにおいても、このマニュアルは標準的な手法として採用されています。
東南アジアや南米など、世界中の研究者がこの「日本のマニュアル」を片手に、同じ方法(チャンバー法)でメタンを測っています。

南川教授たちの仕事のおかげで、世界中のデータを正しく比較し、対策を練ることができるようになったのです。


まとめ:科学の現場は「足」で稼ぐ

「特別な方法」と聞いてハイテク機器を想像したかもしれませんが、実際は長靴を履いた研究者たちの汗と努力、そしてそれを支える緻密な「マニュアル」の結晶でした。

日本の研究者がこうして正確なデータを積み上げ、測り方を世界に広めてくれたおかげで、私たちは「どうすれば環境に優しいお米が作れるか」を正しく知ることができるのです。 夏の水田で見る透明な箱は、単なる道具ではありません。

私たちの食と地球の未来をつなぐ、重要な「研究の最前線」そのものなのです。


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